なぜ彼女は、いつもこのような状況に陥ってしまうのか?女性用風俗のお客様事例
Wさんは、僕とはもう何度も会っているはずなのに、最初はいつも少し緊張しています。部屋にはいって30分ぐらい取り留めもない話をして、シャワーを浴びてベッドに入ります。肩を抱いてWさんの髪をゆっくりとなでていると、やっと緊張が解けて僕に身体を任せてきます。カチカチに凍ってしまったアイスクリームが部屋の温度で少し柔らかくなってスプーンがすっと入る。。そんな感じです。 ここまできて初めて、Wさんは「自分のこと」を僕に話してくれるようになるのです。
Wさんをここまで苦しめているものは何なのか、話を聞き、悩みの正体を明らかにする過程は、洞窟探検によく似ています。2人で真っ暗な闇の中を、懐中電灯の明かりだけを頼りに歩き、わずかな風の流れや、水音を頼りに、出口を探っていく感覚です。
そもそも、本名も知らない男性である僕のことを、彼女が信頼してくれていることはうれしいです。
彼女が少しでも元気になってくれれば、僕自身も救われるような気がしてくるからです。
『女』を全否定してくる父親との確執
Wさんの話は子ども時代の両親とのやり取り、特に父親との確執までさかのぼって行きました。
少女の頃、父親に、「女を出すな!」と言われていたといいます。
「少しでも女ッ気を出すと、怒鳴られたり、殴られたりしました。スカートやワンピースなど、女の子らしい服装は禁止。母がこっそりプレゼントしてくれた、リボンの付いた髪飾りを、目の前で壊されたこともあります。父は厳しい反面、私を溺愛していました。父は私が『女』になり、自分から離れていってしまうことを、心のどこかで恐れていたのかもしれません」
いつまでも、無垢な子どものままでいて欲しい。
一人の女性として、健やかに育って欲しい。
ここにも、父親のダブルバインド(相反する期待)があると思います。
「私はずっと、父から愛される『いい子』でいたかったんだと思います。『悪い子』になって、嫌われるのが怖かった。でも、『いい子』でいてほしいのは、父のエゴですよね。」
封じられてしまっていた過去
Wさんは、父親から押しつけれた矛盾が苦しくて、彼女自身も『女』であることを肯定できなかったのでしょう。ある日いつものようにベッドに入ると唐突にこんな話をしてきたのです。
「前回カオルさんにお会いしたあと、急に思い出したことがあります。自分でも変なのですが、その出来事については、ずっと忘れていました。いえ、忘れていたというより、記憶を封印していたんだと思います。」
そう言って、暗闇の中で僕を見つめてきました。そして、震える声で、
「二十代の頃、何回か子どもを堕ろしたことがあるんです。交際していた男性との間にできたこともあるし、一晩限りの関係で妊娠してしまったこともあります。本当の私は、父の理想とするような、『いい子』じゃないんです。」
彼女はどうしてそうなったのか、話さなかったし、僕も詳しいことはそれ以上聞こうとしませんでした。 矛盾。ダブルバインドを押しつけてくる父親に対する、彼女なりの無意識な抵抗だったのかもしれません。どのような事情があるにせよ、子どもが好きなWさんにとって、それは辛い事実だったと思います。そのことがよく分かったので、僕は声をかけることすら出来ませんでした。彼女はそっと僕の手を取ってきました。
「私は悪い人間です。『いい人』でも、『いいお母さん』でもない。でも、
カオルさんとお話して、ようやくそれでもいいんだと思えました。私が『いい子』にしがみついていたのは、どこかで親に愛されたい、甘えたいという気持ちがあったからだと思っています。でも、私はもう大人だし、いつまでも甘える側でいたら、子どもにも申し訳ない。こんな頼りない私でも、あの子にとってはたった一人のお母さんですから。」
悪い子である自分を受け入れること
堕したという話は、その後2度と僕たちの間で話が出てくることはありませんでした。
でも、Wさんはこの時、これまでの自分が、親に押し付けられた『いい子』だったと気付いて、『ありのままの自分』『悪い子の自分』を受け入れることを決めたのではないかと思います。どうしてかというと、あの日以来、Wさんの部屋に入ったときにいつも感じていた「緊張」がふっと無くなったからです。
『悪い子の自分』を受け入れたとき、人は本当の意味で大人になれるのだと僕は思っています。